NVIDIAのGPUを活用する際、一般的にはCUDA(Compute Unified Device Architecture)を利用します。しかし、「CUDAを回避しPTXプログラミングを行う」とは、CUDAの高レベルAPIを使わずに、PTX(Parallel Thread Execution)を直接記述してGPUを制御することを意味します。本記事では、CUDAとPTXの違い、PTXプログラミングの利点・欠点について解説します。
CUDAとは?
CUDAは、NVIDIAが提供するGPU向けの並列コンピューティングプラットフォームであり、以下の2つの要素から成り立っています。
- CUDA API(プログラミングインターフェース)
- C言語やC++の拡張ライブラリとして提供され、GPUを使った並列計算を実装できる。
- Python(Numba, CuPy)やJava向けのバインディングも存在する。
- CUDAランタイム(実行環境)
- GPUでCUDAコードを実行するためのドライバとライブラリ群。
- メモリ管理やスレッド制御などの機能を提供する。
通常のGPUプログラムは、CUDA APIを使って記述し、コンパイラ(NVCC)を介してGPU向けのバイナリに変換されます。
PTXとは?
PTX(Parallel Thread Execution)は、NVIDIAのGPU向け仮想アセンブリ言語です。CUDAコードは最終的にPTXにコンパイルされ、その後、GPUアーキテクチャに最適化されたバイナリコード(SASS: Streaming Assembler)に変換されます。
- CUDA → PTX → SASS(ハードウェア実行コード)
- PTXはGPUのバイトコードのような役割を果たす
なぜCUDAを回避してPTXを直接記述するのか?
CUDAを使わずにPTXを直接記述する理由には以下のようなものがあります。
1. CUDAのオーバーヘッドを避ける
CUDAのランタイムAPIやコンパイラが挿入する最適化やエラーチェックを省略し、低レベルの最適化を直接行うためにPTXを記述することがあります。
2. GPUアーキテクチャに最適化
PTXを直接記述すると、特定のGPUアーキテクチャ(Ampere, Hopperなど)向けに手動で最適化ができ、CUDAの自動最適化よりも効率の良いコードを書くことが可能になります。
3. CUDAのバージョン依存を避ける
CUDAのAPIはバージョンごとに変更が加えられるため、PTXを直接書くことでCUDAのAPI変更に影響されずにGPUプログラムを動かすことが可能になります。
4. CUDAが不要な環境でGPUを制御
PTXはCUDA以外の環境(独自のコンパイラを用いる環境やCUDAがサポートされていないOS)で使われることがあります。
PTXプログラミングの実際
PTXプログラムはCUDAよりも低レベルなコードになります。例えば、以下のように記述します。
.version 6.5
.target sm_75
.address_size 64
.entry my_kernel (.param .u64 data) {
.reg .b32 r1, r2;
ld.param.u64 r1, [data];
add.u32 r2, r1, 10;
st.global.u32 [r1], r2;
}
このコードでは、CUDAの代わりにPTXを直接書いて、メモリからデータをロードし、10を加えて格納しています。
PTXプログラミングのデメリット
1. 開発が難しい
PTXはCUDAよりも低レベルで、アセンブリ言語に近いため、開発やデバッグが困難です。
2. GPUアーキテクチャ依存
PTXは仮想アセンブリ言語ですが、最適化には特定のGPU世代(sm_75 など)を考慮する必要があります。
3. メンテナンスコストが高い
CUDAのAPIは抽象化が進んでいるため、CUDAコードの方が保守性が高いです。
まとめ
「CUDAを回避しPTXプログラミングを行う」とは、CUDAの高レベルAPIを使わずに、PTX(GPUの仮想アセンブリ言語)を直接記述することを意味します。
✅ メリット
- CUDAのオーバーヘッドを削減
- GPUアーキテクチャに最適化可能
- CUDAのバージョン変更に影響されない
❌ デメリット
- 開発が難しい
- アーキテクチャ依存
- メンテナンスが大変
一般的には、CUDAを使う方が開発が楽であり、PTXを直接記述するのは特殊な最適化や研究開発の場面で使われることが多いです。