AIにおける**RAG(Retrieval-Augmented Generation)とは、情報検索(Retrieval)と生成(Generation)の仕組みを組み合わせたAIアーキテクチャを指します。この手法は、特に自然言語処理(NLP)**の分野で注目されており、大規模言語モデル(LLM)をより有用で正確な形で活用するために設計されています。
RAGの基本構造
RAGは、以下の2つの主要なコンポーネントから構成されます。
- 情報検索(Retrieval):
- 外部の知識ベースやデータベース(例: 文書コレクション、Wikipedia、カスタムデータセット)から関連する情報を検索します。
- ベクトル検索や類似性検索などの手法を用いて、質問やトピックに関連する文書や情報を取得します。
- 生成(Generation):
- 検索してきた情報をもとに、大規模言語モデル(GPT、T5など)で回答や文章を生成します。
- 検索した情報を文脈に取り込みつつ、自然で一貫性のある応答を出力します。
RAGの仕組み
1. ユーザーの入力
- ユーザーが質問や要求を入力します(例: 「AIとは何ですか?」)。
2. 情報検索フェーズ
- 入力を元に関連する文書を外部知識ベースから検索します。
- 検索結果は、入力内容と一致する最も関連性の高い文書やデータ(例: Wikipediaの記事)が抽出されます。
3. 生成フェーズ
- 検索結果とユーザーの入力を一緒に大規模言語モデルに渡し、回答や文章を生成します。
- 生成された結果は、検索結果を反映した形で応答します。
RAGの利点
- 知識の最新性:
- 通常のLLM(事前学習済みモデル)は学習時点での情報に依存しますが、RAGは外部データベースからリアルタイムで情報を取得できるため、最新の情報を反映できます。
- カスタマイズ性:
- 独自のデータベースやドキュメントを知識ベースとして設定することで、専門分野や特定の用途に特化したAIシステムを構築できます。
- 回答の精度向上:
- 情報を検索してから生成するため、信頼性や事実性が向上します。
- LLM単独の生成では発生しやすい「幻覚(Hallucination)」問題を軽減します。
- 軽量な学習プロセス:
- モデル全体をファインチューニングする必要がなく、検索エンジン部分を改善するだけで対応可能。
RAGの用途
- FAQシステム:
- 特定の企業やサービスに関する問い合わせ対応に活用。
- 例: 顧客が「返品ポリシーを教えてください」と質問すると、RAGが関連するポリシー文書を検索して回答。
- カスタマーサポート:
- サポートドキュメントや過去のやり取りを元に、ユーザーに正確な応答を生成。
- 法律・医療分野:
- 法律文書や医療データベースを利用して、専門的で正確な回答を提供。
- 学術リサーチ:
- 論文データベースから必要な情報を引き出し、簡潔にまとめた内容を提供。
- コンテンツ生成:
- 関連する情報を検索し、それを元にブログ記事やマーケティングコンテンツを作成。
RAGの技術スタック例
検索部分(Retrieval)
- ベクトルデータベース:
- Pinecone, Weaviate, Milvus, FAISS など。
- 質問と文書の類似性を計算して関連性の高い文書を取得。
- TF-IDF / BM25:
- 伝統的な情報検索アルゴリズム。
生成部分(Generation)
- 大規模言語モデル(LLM):
- GPT(OpenAI), T5(Google), BERT など。
RAGの簡単なコード例
以下はPythonとHugging Faceを使ったRAGの基本例です。
from transformers import RagTokenizer, RagRetriever, RagSequenceForGeneration
# モデルとトークナイザーの準備
tokenizer = RagTokenizer.from_pretrained("facebook/rag-sequence-nq")
retriever = RagRetriever.from_pretrained("facebook/rag-sequence-nq", use_dummy_dataset=True)
model = RagSequenceForGeneration.from_pretrained("facebook/rag-sequence-nq", retriever=retriever)
# 入力クエリ
input_text = "What is AI?"
inputs = tokenizer(input_text, return_tensors="pt")
# 回答生成
outputs = model.generate(**inputs)
print(tokenizer.batch_decode(outputs, skip_special_tokens=True))
RAGと従来のモデルとの違い
特徴 | 従来のLLM | RAG |
---|---|---|
知識の範囲 | 事前学習時点までの情報 | 外部データベースを利用 |
記憶容量 | 固定(モデルサイズ依存) | 動的(外部検索で拡張) |
最新情報の反映 | 難しい | 可能 |
専門性の高い用途への対応 | 難しい | 簡単(知識ベース変更) |
RAGは、事前学習済みのモデルだけで不足する「最新性」や「専門性」を補い、より多様な用途で活用可能なAIシステムを実現する強力なアプローチです。
初心者にも分かりやすいRAGの具体例
RAG(Retrieval-Augmented Generation)の仕組みを初心者にも分かりやすい事例で説明します。今回は、**「AIによる会社のFAQ応答システム」**を作るシナリオを例にします。
事例: FAQ応答システムを作る
背景:
ある会社では、顧客からよく以下のような質問が寄せられます:
- 「返品ポリシーはどうなっていますか?」
- 「製品の保証期間はどれくらいですか?」
- 「どの支払い方法に対応していますか?」
しかし、これらの質問にすべて人間が答えるのは大変です。そこで、AIを使って自動応答システムを構築したいと思いました。
従来のAIシステムの課題
通常のAI(大規模言語モデルなど)を使う場合:
- 事前に学習した知識に基づいて回答するため、情報が古い可能性がある。
- 特定の会社の情報(返品ポリシーや支払い方法など)はAIが知らないことが多い。
- データベースの内容が更新されても、AIに新たに学習させる必要がある。
RAGを使った解決方法
RAGを使うと、次のような仕組みで問題を解決できます:
- 情報検索(Retrieval):
- 会社のFAQデータベースやマニュアルをAIが検索して、質問に関連する情報を見つけます。
- 生成(Generation):
- 検索結果をもとに、大規模言語モデルが自然な回答を生成します。
RAGの仕組みを図でイメージ
- ユーザーの質問: 「返品ポリシーはどうなっていますか?」
- 検索フェーズ:
- AIがFAQデータベースから「返品ポリシーに関する文書」を探し出す。
- 例えば、「返品は30日以内で未使用の場合のみ可能です」という文書が見つかる。
- 生成フェーズ:
- AIが検索結果をもとに自然な文章を生成。
- 回答例: 「当社では、返品は購入日から30日以内で、未使用の状態に限り受け付けています。」
具体的なステップ
1. FAQデータベースの準備
以下のような情報をデータベースに保存します:
- 返品ポリシー: 「返品は購入日から30日以内で、未使用の場合のみ可能です。」
- 保証期間: 「すべての製品に1年間の保証が付いています。」
- 支払い方法: 「クレジットカード、銀行振込、PayPayに対応しています。」
2. ユーザーの質問
- ユーザー: 「保証期間について教えてください。」
3. 検索
AIは「保証期間」というキーワードに基づいてデータベースを検索します。
該当する文書: 「すべての製品に1年間の保証が付いています。」
4. 生成
AIは、検索した情報を自然な文章に変換して回答します。
AIの回答: 「当社のすべての製品には1年間の保証が付いていますのでご安心ください。」
RAGを使ったコード例(簡略版)
以下は、PythonとHugging Faceのライブラリを使った簡単なRAG実装例です。
from transformers import RagTokenizer, RagRetriever, RagSequenceForGeneration
# モデルの準備
tokenizer = RagTokenizer.from_pretrained("facebook/rag-sequence-nq")
retriever = RagRetriever.from_pretrained("facebook/rag-sequence-nq", use_dummy_dataset=True)
model = RagSequenceForGeneration.from_pretrained("facebook/rag-sequence-nq", retriever=retriever)
# ユーザーの質問
question = "返品ポリシーについて教えてください。"
# 入力データをトークン化
inputs = tokenizer(question, return_tensors="pt")
# 回答生成
outputs = model.generate(**inputs)
answer = tokenizer.decode(outputs[0], skip_special_tokens=True)
print("AIの回答:", answer)
RAGのメリットを初心者視点で説明
- 最新情報を反映できる:
- 会社のポリシーが変更された場合でも、データベースを更新するだけで済みます。AIを再学習させる必要がありません。
- 柔軟で効率的:
- 膨大な情報を覚えさせなくても、必要なときに検索して答えるため、システムの構築が簡単です。
- 自然な回答:
- ただ文書をそのまま返すのではなく、人間が答えたような自然な文章に変換してくれます。
初心者向けのまとめ
RAGは、「検索エンジン」と「言葉を作るAI」の組み合わせと考えると分かりやすいです。ユーザーの質問に対して必要な情報を探し出し、それを分かりやすく伝える力を持っています。この仕組みは、FAQ応答システムのようなリアルな課題解決にとても役立つ技術です!