背景と発端
かつて、Elastic社はElasticsearchおよびKibanaをApache 2.0ライセンスで公開し、多くのオープンソースユーザーに利用されていました。一方、AWSはこれらを利用したマネージドサービス(Amazon Elasticsearch Service)を提供し、顧客に利便性を提供していました。しかし、Elastic社は「協業なしに自社製品の技術とブランド価値を無断で活用される」点に強い懸念を抱いており、問題提起を行っていました。
ライセンス変更と論争の激化
2021年初頭、Elastic社は自社製品の価値保護およびオープンソースコミュニティ内の混乱を回避するため、従来のApache 2.0ライセンスから、商用利用に一定の制約を設ける「Server Side Public License(SSPL)」と「Elastic License」へのデュアルライセンスへ変更することを発表しました。Elastic社は、AWSが自社製品を無断で商用サービスとして展開していることに対し、強い非難を表明し、ライセンス変更が不可避であったと主張しています。
AWSの対応とOpenSearchプロジェクト
Elastic社のライセンス変更に対して、AWSは迅速に対応策を講じました。AWSは、Apache 2.0ライセンスのもとで利用可能な最新のコードベースをフォークする方針を打ち出し、これによりElasticsearchおよびKibanaのオープンソース版を維持することを決定しました。このフォーク版は「Open Distro for Elasticsearch」として始まり、後に「OpenSearch」という名称へとブランド変更され、同社サービス名も「Amazon OpenSearch Service」として展開されることとなりました。
商標侵害訴訟とその解決
Elastic社は、AWSが「Elasticsearch」という名称を無断で使用している点も問題視し、商標侵害訴訟を提起しました。この訴訟は最終的に2022年に和解に至り、今後AWSおよびAWS Marketplaceで「Elasticsearch」という名称を使用できるのは、Elastic社が提供するElastic Cloudのみと明確化されました。
論争の影響とその後の動向
この一連の論争は、オープンソースソフトウェアのライセンスと商用利用、さらにはブランド保護の観点から、業界全体に大きな議論を巻き起こしました。Elastic社は自社の継続的な技術開発と製品価値の維持を図るために強い姿勢を示し、AWSは顧客にオープンな環境を提供するために独自のフォークプロジェクト(OpenSearch)を推進しました。この結果、現在では市場においてElastic社が提供する「Elasticsearch」と、AWSが主導する「OpenSearch」という二つのプロダクトが並存する状況となっています。
まとめ
- 発端: AWSによるElasticsearchを用いたマネージドサービスの展開に対し、Elastic社が懸念を表明。
- ライセンス変更: 2021年、Elastic社はApache 2.0からSSPL/Elastic Licenseへの変更を実施。
- AWSの対応: AWSはオープンソース版を維持するためにフォークを行い、OpenSearchプロジェクトを立ち上げた。
- 商標訴訟: Elastic社はAWSの「Elasticsearch」名称使用に対し訴訟を提起し、2022年に和解。
この経緯は、オープンソースの利活用と商用サービス提供の境界線、及びブランド保護の重要性について今後も注目されるテーマです。
コメントを残す